へしがみつくように巻きつけて彼は、いちばん大きな杉の立木のすわりをよくしようと、片手で鉄槌を振りあげかけると、ベリッ。綿入れの袖を小枝へ引ッかけ、ひどい鉤裂《かぎざき》をしてしまった。
しまった、ギクッとすると手がお留守になり、鉄槌はスルリと指と指の間を抜けて下へ落ちていった。いけねえ重ね重ねだ。いまいましそうに圓太郎は舌打ちした。そのときだった。十ぐらいになる内裏雛《だいりびな》のような品のいい男の子が藤納戸の紋服に手遊びのような大小を差してお供もなく、チョコチョコ駆け出してきた。ヒョイとその子の上へ目を落とすと、
「オイ坊や――」
「…………」
男の子は立ちどまり、怪訝そうに彼を見上げた。
「いいところへ来てくれたな坊や。すまねえがお前の足もとの鉄槌をちょっと拾ってくンねえな」
口を尖らし、唇の尖《さき》で圓太郎は鉄槌のありかを指すようにした。
「これか」
言われるままに男の子は鉄槌を取り上げると、圓太郎のほうへ手を伸ばした。
「それだそれだ」
そいつ[#「そいつ」に傍点]をグイと伸ばした右足の親指とで挟んだ彼は、
「ありがとよ坊や。アトで小父さんがうんと美味しい南京豆買
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