の上に置かれてあった鉄槌を手にした。
トン。トン。トン。トン。さっき[#「さっき」に傍点]のところへ持ってゆき、両端へ釘を打ち込むと、難なく元通りに棚は吊られた。続いて擂鉢と別の丼を思い切って五つ六つ載せてみた。やっぱり棚は落ちようとせず、載せただけの瀬戸物がチャーンとして載せられていた。
「ウフッ」
さすがにお八重はおかしくなった。丼の破片を袂《たもと》を広げた上へ集めながら、クックッ彼女は笑い出した。
一斗桝とは――
トヽヽヽヽヽヽ、トン。
トヽヽヽヽヽヽ、トヽン。
その頃、圓太郎は新福富町の四畳半ひと間きりしかない自分の部屋で、豆絞りの手拭で鉢巻をし、片肌ぬぎで鉄槌を振りまわしていた。一升桝が七十四個、行儀よく前へ並べられていた。ひと口に七十四個というが、七十四個の一升桝はなかなかの壮観であり偉観だった。
一斗桝ってのは一升桝の十倍だ。
理屈ではそうとわかっていても、実地に並べてみないことにはトックリと肯けるものでない。そこで圓太郎は心やすい荒物屋へ行って借賃を払い、これだけ借りてきたのだった。
借りてきた一升桝を十個ずつ、ズラリと彼は四方へ並べてみた。
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