の間のほうへ声をかけて、そのまんま帰っていった。
「マー、餅屋は餅屋。さすがにうまいもンだわねエ」
初めて圓太郎から男一人前の仕事を見せてもらえたそのうれしさ。大きな擂鉢《すりばち》とげて[#「げて」に傍点]がかった丼を三つ四つ、急いで持って出てきた彼女は次々に棚へ載せてみた。と、その途端にだった。ガクンとひとつねじがゆるんだように棚がかしいで、ガラガラガタンと落ちてしまった。擂鉢以外の瀬戸物がみんな板の間でコナゴナに砕けて、あたり一面にちらばった。
アラッ。無惨な丼の破片やだらしなく落ッこちているまんまの棚板をあきれてジーッと見つめていたお八重は、やがてのことにソッと呟いた。
いよいよあの人、高座の他はなにをさせてもみんな駄目なンだわ。だからチャンとしッかりしたお神さんがついていてあげなきゃ、一生出世しないと思うわ。そのしッかりしたお神さんに私ならなってあげられるのにと考えて、お八重は思わずドキンとした。こんな自分の心のなかを、もしや誰かに覗かれてはしないだろうか。ソッと辺りを見廻してみたが、もちろん、誰のいるわけもなかった。
急いで落ちている棚を取り上げた。それからお釜の蓋
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