す」
「頼みましたよ。ほかにも入用のお金があればいくらでもあげますからネ。遠慮なくそう言っておくれよ」
「承知しました。じゃア師匠、明日の朝」
 思いがけなく春の小遣いにありつけたうれしさ。圓太郎は有頂天になっていた。
「ア、圓太郎。もうひとつ頼みがあるんだ。頼まれついでにもうひとつ。台所へ棚を吊ってッておくれでないか」
「おやすい御用で。すぐ吊りましょう」
 ここが忠義の見せどころと、スッと圓太郎は立ち上がった。菰冠《こもかぶ》りがひとつドデンと据えられ、輪飾りや七五三《しめ》飾りがちらばっている大きな台所へゆくと、チャンと大工道具が置かれてあった。お八重が棚板を二枚持ってきてニコッと笑っていった。
「オイきた」
 その棚板を左手でかかえ、右手で鉄槌《かなづち》を、口で釘を三、四本含んで圓太郎は、荒神様と鼠入らずの間の板壁のところまでゆくと、瞬くうちに棚をひとつ吊りあげた。すッかりこさえあげると、二、三間離れて様子を見、また近づいてはためつすがめつ[#「ためつすがめつ」に傍点]したのちに、ウムウムとうなずくと、
「できましたよ、師匠。じゃアさっそく一斗桝のほうへとりかかります」
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