を脇へやって圓朝は、その下にあった奉書包みの書付をポーンと圓太郎の前へ放った、恐る恐るそれを開いてみて、アッ。さすがの圓太郎もドキンとした。思わず顔色を変えずにはいられなかった。
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 今回当監獄所囚人ヘ落語無料長演シ奇特千万ニ付キ、模範囚人苦心調製の七宝製大メダル一箇贈呈ス
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[#地から4字上げ]石川島監獄所主事
          月 日[#地から3字上げ]猪熊秀範※[#丸印、57−10]
          橘家圓太郎殿
 ウヘツ。越中島の養老院だと今の今まで思い込んでいたのに。なんとこれはまた、石川島の監獄所へ余興に行ってきちまったンだ。しかもそんな囚人たちを前にして、泥棒の落語をば長講熱演してきたなんて。
「ヤ[#「ヤ」に傍点]だヤ[#「ヤ」に傍点]だ師匠。道理で養老院だてのに若えおッかねえ野郎ばかりゾロゾロいると思いましたよ。ウルル[#「ウルル」に傍点]、気味が悪い」
 大袈裟に立ち上がって身ぶるいをした途端、
「ア、いけねえ」
 ヒョイと蹴つまずいて圓太郎は、モロ[#「モロ」に傍点]に足もとの土瓶をひっくり返した。ダブダブお茶が
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