ておくれだったのかえ」
やさしい声で圓朝は、訊ねた。
「ヘイ。あの昨日のお座敷って、あのホレ年寄の養老院の一件でござンしょう。エエあれならもう間違いなく行って参りましたよ。落語家なんか滅多に来ねえから、面白え面白えってよろこんでくれるもンでついうれしくなって、馬力をかけてやりましたよ、五席ばかり」
「五席? おやおやたいそうおやりだったねェ。してなにとなにをおやりだったえ」
「病人の噺にゆき倒れの噺に宿無しの噺だったかナ。ついでに、アアそうそう。泥棒の噺を二席たッぷり聞かせてやりましたッけ」
「…………」
とうとう圓朝はおなかをかかえて笑い出してしまった。場所もあろうに養老院へ行って宿無しやゆき倒れの噺をすれば世話はない。
「アレ師匠。なんだって笑うんです。気味が悪いなあ」
「なんでもいいんだよ。それより圓太郎、私アお前に昨日越中島の養老院の年忘れに落語《はなし》をやってきておくれとお頼みしたンだよ。だのにお前、とんでもないところへ行っておしまいだったねェ。おまけにそこで泥棒の噺までおやりだったと言うじゃないか。まア、その書付をよーく見てごらん」
クスクス笑いながら鉄舟居士の半折
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