になる。このときいっしょにかえる新吉が「蝋燭が無けりゃ三ツばかりつないで」というのだが、三つつないだ短い蝋燭の灯の、おもっただけでもトボンと青黄色くうすら寂しい限りではあることよ。
ところが駕籠を担ぎだすとたん、七軒町から駈け付けてくる長屋の者あって、無惨な豊志賀の死を告げる。愕いて駕籠のタレをめくると、中に豊志賀の姿はもうない。煙に捲かれたような顔をしてかえっていく駕籠屋のあと、今更のようにぞっとした新吉と勘蔵とが迎えの者と七軒町へかえっていくと、遺書がある。曰く「この後女房を持てば七人まではきっと取り殺すからそう思え」。
伯父のところへやってきたときの豊志賀があまりにも殊勝らしいことばかりいっているだけ、いっときはあとのこの手紙の、身の毛もよだつもの、おぼえさせられるではないか。すなわち圓朝の幻術といった所以である。
「累ヶ淵」はまだまだ長い。冒頭述べたごとくここから新吉お久を連れて羽生村へ。だがやはり豊志賀の幻影に禍されて、お久を鬼怒川堤で殺してしまう顛末から、次第に新吉、身も心もうらぶれ果てて半やくざ同様となり、破戸漢土手の甚蔵を殺害するまで、決して詰まらない作品とはいえな
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