り、これが尊重に目醒めてきたのか――然りとすればかつて片っ端から都下の井戸井戸を埋めさせた東京市の、近時、しきりに掘り返させているのにも似ているといえよう。
閑話休題――そういう風に速記というもの昔日のものといえども、高座人の話術の活殺はついに知らしむべくもなかったけれども、さすがに往昔の講談落語の速記の中からは演者の描写力や構成力や会話技巧のよしあしなど充分以上に汲み取ることができる。そうして一般話術家は元より、私たち作家にとってもそこに学ぶに足るもの多々ありといい切れる。
ことに圓朝の速記においては、そのころ若林※[#「王+甘」、第4水準2−80−65]蔵《わかばやしかんぞう》子を始めとして当時の速記界の第一流人が挺身、これに当っている。聞説《きくならく》、若林※[#「王+甘」、第4水準2−80−65]蔵子某席における圓朝が人情噺を私《ひそ》かに速記し、のち[#「のち」に傍点]これを本人に示したとき、声の写真とはこれかと瞠目せしめたのが、実に本邦講談落語速記の嚆矢《こうし》ではあるとされている。即ちそれほどの速記術草創時代だったから、圓朝の一声一咳は全篇ことごとく情熱かけて馬鹿
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