石の幼年時代、貧弱極まるものではあったらしいが、この馬場下には講釈場のあったことすら描かれている。もって、知られよ。
浪江、伯父甥の誓約をさせると、早速に重信殺しの手助けをせよと切りだす。そうして聞き入れなければ一刀両断だと猛り立つ。いのちには換えられず、いやいや[#「いやいや」に傍点]正介承諾するが、さてこのあと南蔵院へ戻り、黄昏、落合の蛍見物へ連れだすまでしじゅう正介が口の中で念仏を唱えたり、いうことがしどろもどろになったりするところ、いかにも正介というものの性情あらわれていていい。例えば蛍見物にいっていて重信から酒を飲めとすすめられ「貴方もう[#「もう」に傍点]たくさん上れ、もう上り仕舞だから」といったり、九年の間「やれこれいって下すった事を考えると、私い涙が零《こぼ》れてなんねえ」といったり、またしても「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」といいだしたりする類いに、である。
トド重信は殺される。かねての手筈通り、正介は南蔵院まで駈け戻って、いま先生が狼藉者と斬り合っているとこう伝える。と意外にも寺僧たちは一笑にふしてしまって、つとに先生はかえって本堂においでですという。ギ
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