を求めて朝太郎の悲劇は展開されてくるのであるが、そういえば大利根へ入水する悲しき明眸またお里である。さらに倉岡元庵の忰元仲をしておよそ世にあるまじき鬼畜としているところなど、かくて私の作家的貪慾さはむしろこの物語の背後のほうへいよいよ旺盛な空想を走らせないわけにはゆかない。
「怪談乳房榎」
明治二十一年出版とされている「怪談乳房榎」のほんとうの製作年代は詳《つまびらか》にされていないが、前二作より遅れていることは明らかだろう。
まずまくら[#「まくら」に傍点]に主人公菱川重信の画風を以てして、
「土佐狩野はいうに及ばず、応挙、光琳の風をよく呑み込んで、ちょっと浮世絵のほうでは又平から師宣、宮川長春などという所を見破って、其へ一蝶《いっちょう》の艶のある所をよく味わって」
と、国芳門下に彩管を弄《もてあそ》んだありし日が立派にここでこう物をいっているのである。圓朝は骨董にもよく目が利いたと圓朝の名跡を預かっていられる藤浦富太郎氏はかつて私に語られたことあったが、改めていまここで引用はしないが「菊模様皿山奇談」のまくらにおいてもいかにも美しそうなふくよかな艶ある陶器に
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