で詫びに連れていってくれた金兵衛がどう陳じても盗られた六十両を返せといって肯じない。乗りかかった船で侠気の金兵衛が主家の払いの金六十両を島伝に与え、無理から安次郎を江島屋へ連れ戻ってきて奉公人としてやるのである。
もちろんこのような男ゆえ金兵衛には末始終なんの祟りもなく末安楽となるのではあるが、それにしてもいくら金兵衛が善人でも主人治右衛門がそうでなかったら、そのとき六十金を支払って易々と安次郎をかかえはしまい。また主人が嫌がるのを説き付けるだけの勢力ある金兵衛なら、この血も涙もある男の、到底糊貼り衣裳なんかは売りはしまい。立派な暖簾の手前にかけてもそんなまやかし[#「まやかし」に傍点]を売ることなど、させなかったはずである。これは圓朝にも似合わない不用意であり、失敗とおもう。むしろ強慾島伝のほうを古着屋にしてそこから悲劇を発生せしめ、死霊をして祟りに祟らせてやりたかった(だのに島伝は始めだけで全然終末まで顔をださない)。
また一家の祟りに端を発して養子夫婦が逐いだされたり、殺人があったり、仇討ちがあったりという風に所謂お家騒動に仕立てられているが、かりに島伝へ祟るとしてももっとそ
前へ
次へ
全82ページ中38ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 容 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング