が、これからあとの江島屋一家の運命は例の傀儡《かいらい》的な因縁また因縁で甚だ妙でない。「牡丹燈籠」や「累ヶ淵」(前半)の因縁は因縁なりにまずまず自然さがあるけれど、「江島屋」の場合は因縁のための因縁といったようなところがあって少しも実感なくおもしろくない。すべてお里母子の死霊の祟りの糸によって江島屋治右衛門は女狂いをはじめる、善良な夫婦養子は追い出され、しかも夫は紙屑買いに、妻は吉原松葉屋の小松という花魁とまでなり果ててしまう、これへ絡むにお里の義理ある兄倉岡元仲が江島屋養子安次郎の父や、小松の母の殺害事件があり、トド浅草石浜の鏡ヶ池で仇元仲を仕止めるという終末なのであるが、倉岡元仲という悪人の性格にも人間味なく所謂《いわゆる》ひとところの新派大悲劇的悪人という奴で少しも同感が強いられない。相棒の伴野林蔵も「英国孝子伝」の井生森又作という役どころであるが、又作ほど活々と描けていない。それには冒頭、小僧時代の安次郎が元仲に六十両捲き上げられたとき、それを救ってやるのは江島屋番頭金兵衛である。そのころまだ安次郎は横山町の島伝という糶呉服屋に勤めていたのであるが、その主人至っての強慾
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