三枚にして置いて、赤《あけ》えのと、青えのと、それから萌黄のと、三枚布団で、化粧鞍を掛け、嫁子《よめっこ》さんを上へ結附《いいつ》けて行くんだよ」と村内の世話焼をしていわしめている。いかにも田舎田舎した婚礼馬の盛装が目に見えるようではないか。しかも「柔和《おとな》しい馬を村中探したが無《ね》えから」と、探すに事を欠いて「漸《ようや》っと小松川から盲目馬を一匹牽いてきやした」というのである。歓びたちまち凶と変じて、数時間後には大利根の藻屑となる薄幸の花嫁の運命を象徴すべく、盲目馬とは何たる憎い配合だろう。私の圓朝に脱帽せずにいられなくなるのは主としてこうしたところにあるのである。
またひとつ、家では老婆をして金兵衛に「何も御馳走は有りませんが唐土餅《からもち》と座頭|不知《しらず》という餅がありますから」と愛想をいわせている。いずれ『日本の菓子』の著者山崎斌君にでも質してみよう、寡聞にして私はこの二つの菓子の名を全く初耳なのであるが、唐土餅とか、ことに座頭不知などいかにも野中の一軒家でだされる餅菓子らしいではないか。こうした小道具の妙もまた、私の推賞して止まないところの圓朝のよさがある
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