子孝助に与《くみ》して仇討本懐一途にとスピードをかけさせている。もっともこの辺まできてまだモタモタ筋を運んでいるようでは仕方がないが。
 伴蔵志丈はやがて江戸へ。よくある型で伴蔵、志丈もまた己の悪事を知る一人とてまた斬殺してしまうが、とたんに手が廻って伴蔵もまた御用弁になる。どう考えてもこの男、早乗三次以上の悪党ではない。
 そのころひとたび江戸へかえってきた孝助が勇齋宅を訪れて仇の行方を占って貰い、併せて年月尋ねる母の行方をも占って貰うと「たしかにいますでに会っている」といわれ、どうしても分らない。折柄、そこへ訪れてきた婦人が母であること分り、さらにその母によってお国の行方また分るのは、いよいよ筋が引き締まってきていい。ただこの母の再縁先の腹違いの娘がなんとお国であることは、あまりにも因縁がくどく不自然でありがたくない。黙阿弥などにもこの種の因縁はザラにあるけれど、江戸風物詩的雰囲気や厄払いの美文でそれがどうやらかき消されている。従って圓朝もまた高座でこれを聴くときは人物風景が浮彫りとされるため、この不自然さがさまでは耳に障らないかもしれず、とするとこれは圓朝にも私たちにも速記なるが
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