んなひ弱い男でも萩原とおみねと人二人殺してずんと本度胸が坐ったといえばそれ迄であるが、いくら剣術の空っ下手な(情人たるお国が首《はじ》めのほうでしきりにそう慨《なげ》いている!)源次郎でもともかくも相手は二本差、あくまでここは少うしおっかな[#「おっかな」に傍点]びっくりになりながら相手の旧悪を暴くので、源次郎、旧悪の前に一言もなく[#「旧悪の前に一言もなく」に傍点]涙金で引き下がる、そのあとでにわかに元気付いて志丈にいまの「二三の水出し」云々を並べ立てる喧嘩過ぎての棒ちぎりのほうが、ずうーっと伴蔵らしくはないだろうか。伴蔵という男、到底この程度の悪党以上にはおもえないのであるが、さてどんなものだろう。ただおもう、私は、この厄払いじみた台詞こそ、じつに書き下ろし当時芝居噺の当時の残り香なのではなかろうか、と。なるほど、芝居噺のことにしたら多少伴蔵の性格を犠牲にしてもここのところ、こう啖呵を切らしたほうがたしかに舞台効果はあるだろう。すなわち冒頭、今日速記にのこっている当初の芝居噺らしき匂いはむしろその「悪い面のほうである」と特記した所以である。
もうこれから後はトントン拍子に、天、孝
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