中の年齢までかいてあるのに瞠目したと語っていたが、この源助の場合など考えるとき、たしかにそうしたこともあり得たろうとおもわないわけにはゆかない。
かくて第二次のお国の計画も画餅《がへい》に帰したが、平左衛門大難の日は刻々と迫ってくる。しかもその前夜、平左衛門は、姦夫源次郎の姿に身をやつして、ワザと孝助の槍先にかかってしまうのである。はじめにいったとおりしょせんが自分は孝助の親を斬って棄てた仇の身の、我から討たれてやるつもりだったのである。主家のため憎い源次郎を討たむとして主人を手負いにしてしまった孝助の驚き、仇同士と聞き知っての愁嘆、まことに人生の一大悲劇であるが、こうしたところは残念ながら速記ではほんとうの「味」は分らない。てんで[#「てんで」に傍点]さし迫った演者の呼吸が感じられてこないからである。ただ孝助は今宵こそ源次郎を突き殺して自分も切腹してしまおうとおもっているから「泰平の御代とは申しながら、狼藉ものでも入る」といけないとて槍を研ぎはじめる。それを平左衛門は「憎い奴を突き殺す時は錆槍で突いたほうが、先の奴が痛いから」いい心持だと止め、それもそうだと孝助は止めてしまう。あに
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