いってしまう。寺を教えないでかえるためにあとの怪異が自然に進行し、発展する。その発展のためには志丈のこうした性格がまたあくまで自然に役立っている。こうしたところも、春のやおぼろではないがかいなで[#「かいなで」に傍点]の作家には真似られぬ圓朝の冴えが見られるとおもう。ところで牡丹燈籠提げて駒下駄の音物凄きお露お米の怪異は、その晩のうちにおこなわれるのである。二人の姿をみつけた新三郎がアッとおどろく前に、乳母のお米のほうが「貴方様はお亡くなり遊ばしたという事でしたに」と目を瞠っている。で、お前様こそお嬢様のお亡くなりのあと看病疲れで亡くなったと、聞きましたにと新三郎がいぶかると、いよいよお米は呆れたのち、「うちにはお国という悪い妾がいるものですから邪魔を入れて志丈に死んだといわせ」たのだろうとこういう。ここにおいて新三郎同様その晩のお客もまた、ではやっぱりこの二人の死んだというはお国の詐略だったかと易々と信じさせられてはしまうのである。というのが、お国とは平左衛門がお露の母の死後つい引き入れた悪婆で元々この女と合わないため乳母と二人、寂しく柳島の寮で暮らしているお露ではあることを初晩以来
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