、お客といえども知らされているから。こうした段取りもやはり憎いほど圓朝は心得たものだとおもう。
 かく物語の発展していくうちも平左衛門と孝助のA、お露新三郎のBと、相変らず物語はAB、ABと隔晩に交互して運ばれていっているのであることもちろんで、今後はいちいち断らないからその積りで読んでいって頂きたい。すなわち一方、飯島の家においてはそうしたお国なればこそ、隣家次男坊宮部源次郎とわりなき仲となっていて、釣に事寄せ平左衛門を殺そうとさえ企てているため、私かに聞き知った孝助が躍起となって主の大難を未然に防ごうとしている。そうした最中に飯島の知人相川新五兵衛が訪ねてくる。新五兵衛は娘のおとくが孝助に恋患いしているので、飯島まで孝助を貰いにやってきたのであるが、この新五兵衛のいかにもそそっかしい好々爺ぶりも春のやの賞讃しているとおりじつによく描かれている。否、ことによると「牡丹燈籠」全篇を通じて相川老人が一番ありありと描けているかもしれない。「娘の病気もいろいろと心配も致しましたが、何分にも捗々《はかばか》しく参りませんで、それに就いて誠にどうも……アア熱い、お国さま先達《せんだっ》ては誠に御
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