の一都市をえがいても当然かうした失敗は繰返すことにちがひあるまい。
[#地から1字上げ](昭和十四年春)
広重の家
首尾の松
首尾の松のすがたをおぼえてゐる。私はほんの子供ごころに。
いま、どこかへ退けてしまつた蔵前高工の真後で、大川とすれ/\のところに生えてゐる一ともとの松だつた。ひよろ/\と細い枝ぶりだつたやうな記憶があるが、それは私の間違ひだらうか。
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大汐に松をかすめて猪牙《ちょき》とほり
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一世に諷はれた天明の狂歌師で、川柳家としては牛込蓬莱連の盟主だつた朱楽菅江にはこの川柳があり、近世では伊藤松宇に、
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しぐるゝや嬉しの森に首尾の松
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がある。ほんとうに四季をとほして、しぐれ、粉雪、さゞめ雪、さうしたはつ冬の、鈍い、どんよりとあぐねつくしたしゞまの中に置いてみて、一ばん趣深い「松」だつたやう、おもはれてならない。
ところで、私は首めに「ほんの子供ごころに」とうつかりかいてしまつたけれど、よく/\考へてみると、首尾の松は震災の少し前まで枯れ/″\ながら尚且その余齢を喘い
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