さも感嘆するやうに云つたりした。今日からおもへば、全く嘘のやうな話である。その晩私は運座に先立つて親しく見て来たお堂の裏、噴水の辺に威勢好く軒を列ねて勝手道具の数々を売つてゐる枝太郎の「両国」宛らの有様をば目に描いて、
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灯の中や杵活き/\と年の市
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とつたない一句をものしたが、折柄おもてにはしみ/″\と仇な新内流しが高音の三味線。いまに私は、その夜の景色を忘れることができないのである。

 ただ[#「ただ」に傍点]※[#「米+參」、第3水準1−89−88]粉《しんこ》

 きのふ、十八になる娘分の春美がただ[#「ただ」に傍点]※[#「米+參」、第3水準1−89−88]粉を牛込の方でみつけたとて購つて来た。そのお※[#「米+參」、第3水準1−89−88]粉ただ[#「ただ」に傍点]※[#「米+參」、第3水準1−89−88]粉とは云ふものゝ決して昔のやうな正面へドデンと白い山脈のやうなものが据えられ、その前へ赤、青、緑、黄、黒、時として金、銀までの小さな色※[#「米+參」、第3水準1−89−88]粉の舎人《とねり》のごとくとあしらはれてゐるもの
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