ても汚い鱗葺の屋根の上に唯だ明るく日があたつてゐると云ふばかりで、沈滞した堀割の水が麗な青空の色を其のままに映してゐる曳舟通り。」
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 永井先生が「すみだ川」の一節――。
 宗十郎が云つた、昔、今戸に住んでゐた沢村宗十郎が。

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「お猪口一つ持つて行きさへすれば、墨堤十里、あつちでさゝれ、こつちでさゝれ、随分いい心持ちによつぱらつてお花見ができたものですよ、あなた」
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 さてこそな、落語の「花見酒」。
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佃育ちの白魚さへも
  花に浮かれてすみだ川
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 この唄、たゞ美辞をつらねたものとばつかりおもつてゐたら、ほんたうについ明治の中ごろまでは花見舟で白魚を手掬《てずく》ひにする芸当もできたさうなとこれはこのあひだラジオでの伯鶴のはなし。
 おしまひに昨夜、いい清元の談《はなし》を聞いて来た、「清心」と「三千歳」との清元の談を。

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「清心が十六夜にパッタリであふ、そのときすぐ十六夜ぢやないかとさう云つてしまつてはいけない。闇の夜の哀しさ、十六夜……
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