ーがいて、茶房正面のカーテンの彼方は、これまた、小奇麗な四畳半が三間ずつ、よくもこんなに器用に心憎くも設計されたものかな。しかも、昔の岡場所のような隣との間の境界が決してお寒いものでなく、薄桃色の照明、黒白の壁、その壁へシークに貼られた洋画女優のブロマイド、同じく壁にかけられている目の醒めるような派手なドレス――朱塗りの鳥籠に青い鸚鵡《おうむ》が一羽いても、決して不調和ではない、幻想的なルームである。
「荷風好みだなあ」
 見るなりA氏が感嘆の声を放った。
「荷風先生も浅草へお通いになる以前は、三日にあげず買い物籠を提げては昼間おみえになりましたよ」
 原さんが言った。
 私は、この部屋の異国風な華やかさに、中国の遊里へ漂流の日本人が遊びに行く「唐茶屋」という落語の景色を思い出していた。
 屋内に茶房が軒を並べ、その後に気の利いた寝間までできている点は、三代目小さんの十八番「二階ぞめき」の風景にもまた似ていると思って、一人微笑んだ。「二階ぞめき」は毎晩吉原をぞめいて歩かないと眠れないという息子が、自分の家の二階へ遊女屋のセットをこしらえてもらい、そこを投ケ節を歌いながら上機嫌でほっつき
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