題した所以である。
しかし、その時の運動会も、じつは私には愉しかった。江戸川区長の祝詞があってまず私を驚かせ、次いで専属バンドのジンタ調の「君が代」が演奏されて、いよいよ私は驚かずにはいられなかった。
昔、吉原遊廓で何かの祝典の時、日本陸軍進撃の活人形ができ、傍らの棒杭に「大日本遊廓[#「大日本遊廓」に傍点]」と大書きされてあったというナンセンスが斎藤緑雨の随筆にあるが、この日の区長や君が代なども、おおよそ私の想像してきた色町の親睦会とは違いすぎる空気のものだからだった。
当日の競技種目は二十五種で、文字どおり生きた鰌を掴んで走るどぜうつかみ、相合傘で走るアベック競走、男を沢市に見立てて目隠しをさせ手を引いて走る壺坂競走、大きな紅白の張子の達磨を冠ってリレーになるだるま競走、路上の大根や人参を買い物籠へ拾い入れて駆け出す買い物競争など、ことにおもしろかった。
アベックや壺坂に出た男の人はみな原さんたちパレスの役員で、「買い物競争」には場内の電蓄から笠置シヅ子の「買物ブギ」の※[#歌記号、1−3−28]おっさんおっさんこれなんぼ――の唄が軽快に流れてきたのも、時にとっての一興だっ
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