彩《いろ》の光を浴びては妓たちが踊る。
この喜久八の実弟が、時蔵門下の中村梅花であると、この頃本人の口から聞かされた。
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東京パレス紀行
一
昭和二十六年陽春の小寒い夕まぐれ、宮尾しげを画伯、俳人S氏、温泉協会のA氏と四人で私は小岩二枚橋の東京パレス見学に出かけた。
パレスの支配人原元治郎さんが、講談落語の愛好家で、桃川|如燕《にょえん》、桂三木助、五代目小さん君らみなひと方ならない贔屓《ひいき》になり、その社会にたずさわる私もまた自然と御懇意を願うようになったその余恵である。
もっともそうしたつながりから、すでに昨年十月二十一日の創立五周年記念ダンサー大運動会にも、私は招待されて列席の光栄を有したが、その時は運動会だけで妖艶な夜の雰囲気には接しないで帰った。
戦後のこの種の色町といえば、これも昨年の暮春、わずかに吉原のおいらん道中を街上に仰いだだけで、春情鳩の街も知らなければ、立石や亀有の灯を慕ったこともない。だから、今の私には、「特飲街の探訪」と聞くだけで、なにか淡い旅愁のようなものをさえしみじみ感じさせられる。
「東京パレス紀行」と
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