い度胸だ」
ニンマリ笑って、
「ならこれだ今度ァ」
いきなり懐中へ手を入れるが早いか、ニョロニョロと掴み出した、かねて寵愛の赤棟蛇、ゾロッとそいつを卓子の上へ置いたら、
「ウ、ウワーッ」
よっぽど[#「よっぽど」は底本では「よっほど」]蛇嫌いだったとみえる、あンちゃんたちまちいまし方までの威勢はどこへやら、全身|俄《にわか》に強烈な電気にでもかかったように硬直して棒立ち、身体中真っ青になりつくして、後をも見ずにアタフタ表の方へ駆け出して行ってしまった。
「ざまァ見やがれ青二才め」
凱歌を上げると日本太郎、どうやら清水次郎長か国定忠次にでもなったつもり。千古の危急を救ってやったここの主人からは御礼の百万遍も言ってもらおうとふン反り返っていたら、あに図らんや、とたんにコック場の方から出てきた主人の機嫌がすこぶるよくない。そうして、言った。
「もしその蛇を持ってるお客さん、余計な真似をしちゃ困るじゃないか。今の若い衆から、うちはいまだお勘定もらってねぇんだ。お前さんあの人の分もいっしょに払ってっておくんなさい」
「…………」
この日本太郎、『寄席囃子』の中の随筆では娼妓上がりの娘に
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