のであろうと思う。ところでこのバカントラ、手品や音曲を演るのではなく、連夜高座へ花札やさいころを持って押し上がっては、いわゆるいかさまばくちの種明かしをやって見せ、いささか袁彦道《えんげんどう》をあそぶ人々への、戒めとはしたのである。この点、前掲のにせの官員小僧や蝙蝠小僧が盗犯防止のリーフレットを売ったのとやや似ている、がもちろんその前身とて同じく下関無宿といったような遊侠無頼の徒だったのにちがいない。白昼、そのへんの大道で、でんすけ賭博とやらが堂々と横行している今日この頃もまたバカントラ第二世は颯爽《さっそう》と都下の高座へ君臨して、よろしくいんちき賽の秘密など曝露してくれてもいいのではなからうか。

 針金渡りやピストル強盗の一人芝居をして自由党壮士くずれ脱獄囚と自称した、矯躯の奇人日本太郎とくると、もはや大正寄席風物詩中の登場人物だから私にもたいへんハッキリとした記憶がある。何の因果か太郎、元来、蛇が好きで、いつもニョロニョロ生きたのを楽屋へ携帯、一夜、どこかの寄席でこれが客席へ這い出したので、たちまちに女子供は阿鼻叫喚。もっとも花のお江戸の真ん中の寄席で、いきなり蛇に這い出され
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