の情涙を彼女が受け入れれば、自らその性格も変わるであろう」
 って、変わりゃしないよ!
 なにしろ全然大真面目の、いとど重々しい越後訛りで、こう言うのだからおかしかった。
 論より証拠、おでこのしゃっぽの依然変わらなかった証拠には、E師が定まるパトロンとなったのちも、彼女はちょいちょい浮気をした。そしてばれた。
 一日、とうとう堪忍袋の緒をきらしたE師は、彼女を拉《らっ》して竜泉寺あたりの風雅な宿屋へと出かけた(ああ、その頃の台東区竜泉寺には、いまだ美しい蓮田があり、葭切《よしきり》が鳴き、アベックに好適な水郷だった!)。そうして、宿屋から借りた剃刀で、彼女のある部分を無毛にしてしまうと、今日もまた極めて暗鬱な調子で、
「今後ともお前はその無毛の部分を見るたびに、今回の浮気の自戒としなさい」
 と一場の訓辞をのこしてE師、悠々、昼席へ出かけてしまった。残されたおでこのしゃっぽはすぐにかねて交渉のあった前座のFを呼び寄せると、
「今、Eの奴がね、私のをみんなあたっち[#「あたっち」に傍点]まったんだよ」
「へーェ、いったいどんなにあたったんですネ姐さん」
「ホーラ、こんなだよ」
 クルリ
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