おおいにその道のエキスパートにましますというあだ名なのである。
それにしてもE師の情痴はあくまでE師らしく、彼女と同衾《どうきん》の真っ最中でも、抱擁の最高潮時でも、いちいちそのこと自身にいやに糞真面目な理屈がついて廻っていて、それがよほどおかしいのである。
なかんずく、おでこのしゃっぽと言うあだ名ある(よくあだ名が出るが)情人が出きた時の話など、E師の面目躍如たるものがある。おでこのしゃっぽとは、おでこがしゃっぽ(帽子)を冠って歩いてるような顔だという意味。けだし、あまりいい女じゃない。
だのに、このおでこのしゃっぽ、ひどいひどい浮気者で、以前は芝の蒲団屋の娘だったとかかみさんだったとか、蒲団屋のかみさんだけにやたらに誰とでも寝たのかもしれないが、この間死んだ伯鶴、先代小円朝、今の金語楼、等々まだまだそのほか大正末から昭和へかけての講談落語界には有名無名の関係者がたくさんあった。
E師は、敢然とこの多情なおでこのしゃっぽの旦那に納まったのであるが、その旦那たるにもまたちゃんとひとかどの理屈がついていた。
「あの女があまり哀れであるから私は関係を続けている。私のような一方の人士
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