ニとは言わなかったろうが――。
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    寄席と艶笑と

 下足番の曰く
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三亀松にクソとおもえど先生
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 という川柳が、坊野寿山君にある。
 柳家三亀松の「芸」への好悪は別として、冬夜、男のオーバーの中へしっかりと抱き寄せられた美しい色白長身の芸者の婀娜姿だけは、たしかに艶冶《えんや》な彼の「舌」から蘇ってくる。その三亀松の非発売レコードに、例の「新婚箱根の一夜」の閨房篇があると聞くが、ほんとうだろうか。が、かりにあるとしても、秘本とちがって音声を発するレコードのこと、めったなところではかけて聴かれまい。
 大阪落語に猫の小噺のシリーズがあって、自然にそれの第三席めが、エロティックな落ちになっている。まず第一席は砂浜にねている蛸の足を一本、ムシャムシャ猫が食べてしまったので、憤慨した蛸は今度は寝たふりをしていて相手が食べかけたとたんに海の中へ引き摺り込んでやれと待機していると、いっこうに猫、やってこず。曰く、その手は食わん。第二席は、その猫が一日、赤貝に手を挾まれて困り、カタコトと音立てて挾まれたままで梯子段を上っていくと
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