「かんかん虫は歌う」(吉川英治原作映画主題歌)をレコードで踊ったりして、一味、新鮮な匂いを漂わせた。吉井師が牧野宮島両君と桟敷へ現れたり、久保田万太郎、村上浪六、岩田専太郎、野村無名庵諸家も、当時近隣におられたので、客席にそのお顔を見た。一夜、いつかかいた「マリアの奇蹟」という西洋芝居噺で、牧師が「罪を憎んで人を憎まず」と盗人をさとすのを、「人を憎んで罪を」と反対に言い、正直に「まちがいました」とさらに訂正したので客席が沸《わ》き、大失敗をしたことがある。以来私はこう悟った。たいへん人が悪いようだが、リズミカルに言えたまちがいならなまじなまなか訂正なんかしないで、堂々とまかりとおってしまうことである、と。現に邑井貞吉翁は、「頼政|鵺《ぬえ》退治」に音吐朗々あの調子で「時鳥がホーホケキョウと啼いた」と演ってのけたことがあったが、客はほとんど気がつかなかった。反対に「伊井直人」で「薙刀《なぎなた》の尻手」と言うべきを、槍同様に「石突き」と言ってしまった時、堂々と客席を睨め廻して、かえって客の方がまちがったかのような錯覚を与えた上、悠々そのあとを講じ続けたは、近年では田辺南龍老あるばかり。あ
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