わが寄席青春録
正岡容

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)砧《きぬた》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)情緒|纏綿《てんめん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#歌記号、1−3−28]
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    第一話 寄席ファン時代

 毎々言うが、私の青春は暗黒だった。で、その頃寄席へ行って名人上手の至芸に接するたび、つくづくアベックで聴きに来ている人々がうらやましかった。ことに相手が美しい人たちだといっそうだった。俗にかみはく[#「かみはく」に傍点]と仲間から呼ばれていた神楽坂演舞場へよく来ていた美男美女のカップルなど、二十余年を経た今日といえども、まざまざとそのあえかな面輪を羨ましく思い泛べることができる。かくして私はいつも自分一人か野郎同士で、品川の圓蔵を聴いた、圓石を聴いた、三代目小さんを聴いた、盲の小せんや先代文楽や先代志ん生や先々代市馬を聴いた、ただし、三代目小さんだけは、大震災直後、大阪南地の紅梅亭でたったいっぺんだけ
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