ない虎ちゃんともども偲ぶのである。この時文楽君と同行していた支那服の麗人が、今の文楽夫人と十余年後わかった。
翌年の夏の新守座出演は、水死した先代|橘《たちばな》の圓《まどか》が助演で、滋味ある「天災」や「三味線栗毛」の話風は、豊麗な六歌仙の踊りとともに、悠久に私の目を耳を離れまい。今端席にいる富士松ぎん蝶も出演した。この時に一座したのが今の私の妻で、初日に出演のことで大喧嘩してしまった顛末はかつて書いたから、繰り返さない。
いい落ちとしたが、昭和四年春帰京、高円寺にいた西村酔香君のそばの下宿に旬日いたが、今日では見られない、入り口へ宿泊人の生国と名前を小さく木札へ書いて提示してある、宇野浩二氏の「恋愛合戦」に出てくるような下宿屋で、その田臭に、純東京育ちの私はとうてい耐えられなくて、金馬君のところへ逃げ込んだ。大阪ではいつも旅館の一室ばかりを借りていたから、私にも辛抱ができたのである。
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第二話 浪曲師たち
春は虎杖《いたどり》の葉が薄紅色に河原へ萌え、夏は青々と無花果が垣に茂り、秋は風祭へ続く芒野、冬は色づく蜜柑畑と、相州小田原は早川べりに、ずいぶん
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