王寺公園横の家にいた頃、三木男を名乗って内弟子だったことがあったが、この時の内弟子らしからぬ大ずぼら振りは、今考えても痛快だった。ある夏の午前十時頃、たびたび前にも引き合いにだした吉岡鳥平君と私が三木助氏宅をおとずれると、律義な三木さん(私たちは陰ではこう呼んでいた)はすでに朝飯をすませたらしく片づけ物をしているのに三木男先生の姿が見えないで、
「師匠、小林(三木助君の本姓)は」私が訊ねると、「坊ッちゃん……」とわざと目を細めながらこう呼んで笑って、二階の方を小首でしゃくりながら三木さんは、「まだ寝ンねですわ」と穏やかに眉をしかめた。この真夏のカンカン天気に、嘘にも内弟子が師匠より遅くそれも十時までも寝ているという法はない。その上、訊いて見ると夜も師匠よりは早く寝てしまうのだと言う。いよいよ私は恐縮し、たとえ昼寝をしてなりとも朝は師匠より早く、夜は師匠より遅く寝るべきであると、元来私の十五歳からの友だちだからさっそく三木男君を呼びつけて厳談に及ぶと、しばらく黙ってジーッと聞いていた同君、やがてのことにムックリあの白い兎に似た顔を持ち上げると、とたんに言ったね。
「いえ私ア昼寝もしている
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