を渡辺均君からもらうと、一気に長崎まで訪れて行ったが、わざわざ停車場へ迎えに来ていてくれた少女は文字どおりの少女でいまだ十六の春を迎えたばかり。握手をした袖の下からはいかにも子供子供した紅いジャケットがはみだしていた。いくらなんでもこの人と相携えて同棲はできなかった。滞在|月余《げつよ》、世にもつまらなく引き返したが、この時の紅いジャケットの少女がのちにいろいろの話題を世人へ投げかけた映画女優志賀暁子君のいとけなき日であろうとは誰が知ろうぞ。つまりジュール、ラフオルグではないが、「天下のこと日にあらずなり」私は打つ手も打つ手もみなことごとく駄目だったのだ、それもきまってあまりにも馬鹿馬鹿しい思いもかけないような理由ばかりから。私は度重なる心の疲れ、心の寥しさにやりきれなくなって、とうとう圓馬夫婦の見立てならとそれをせめてもの己れへの申し訳にしてあたふた見合い結婚をし、またまたこれさえが駄目になってはしまったのだ。
 もちろん例外もないとはいえないが、全体に肉親の愛に飢えている天涯倫落の孤児ほどかえって恋愛に弱く、孤独のさびしさにも弱い人が多くはないか。四十五十まで双親の健在な人々の方に
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