場所」はあの川筋の夏の「花火」と共に生活の一つの内容のやうなもので、殊にぼくの成人した家のやうな客商売とか、元柳町筋一帯の芸妓屋稼業にとつては、一面生活を角力や花火によつてパトロナージュされてゐた傾きさへある。
[#「今のメモリアル・ホール」のキャプション付きの図(fig47603_03.png)入る]
 場所が来ると風の加減で櫓太鼓が水を渡つて来るだけでなく、吉例の触れ太鼓がやつて来るのである。呼出し奴に太鼓の連中を添へた一団がすたすた大太鼓を小意気に棒へ横つちよに結へつけた奴を担つて、玄関口へ一さんにおしよせる風景は、気負ひのものだつた。扇子を半開きにしてすき透るやうな美声で順々に取組を披露する。そして一番おしまひに、「はじまりは早う御ざりまする――」と一人が早口に語尾を引いていふと、これにかぶせて、ドドドドカドカドカ……と猶予なく太鼓を打込み、触れ太鼓の連中はさつさと出て行つてしまふ。中に「どうもありがたうござゐます」とか「どうぞお早く」とか、腰を低く家の者とあいさつしながら、祝儀を受取つたり、茶わん酒を一杯引つかけたりして行く者がある。皆足ごしらへの敏捷な縞のたつつけ姿で、そし
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