両国今昔
木村荘八

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)群《かた》まり

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|群《かた》まり

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「鼠小僧の墓」のキャプション付きの図(fig47603_01.png)入る]

 [#…]:返り点
 (例)各抛[#レ]物為[#二]纏頭[#一]
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 櫓太鼓にフト目をさまし、あすは……といふけれども、昔ぼくが成人した家は、風の加減で東から大川を渡つてとうとうと回向院の櫓太鼓が聞えたものだつた。ぼくの名は生れ落ちてからこれが本名であるが、この荘の字をよく人に庄屋の庄の字と間違へて書かれることがある。昔は川向うの行司木村庄某あてのハガキや手紙が番地が不完全だとぼくの家へ舞込むと同時に、ぼくへの通信がまた一応両国橋を向うへ渡つて附箋をつけて戻されたことなどあつた。両国はぼくの故郷である。
 しかし近来の両国はぼくにとつては全く勝手のわからない、甚だ縁の遠いものになつてゐる。第一、自分があの地域のどの辺で生れたのか――ぼくは日本橋区吉川町一番地といふとこ
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