の長男は、夏は伊東水練場の助教で鳴らしたものだつた。その隣りの角が差配の山田さんで、次が坂本といふ家。五六軒飛んで清元の師匠。それから順に、太田の牛乳屋さん。髷屋。かもじ屋。仕立屋。その隣りが水野の梅チヤンといふものゝ家、しもたやで、板新道が終る。
反対側の横山町は、紐屋の次が五六軒飛んで按摩。隣りが駄菓子屋。それから仲間の安倍君の家、これはわかり良くいへば望月太左衛門の家で、われわれの仲間の安倍君は今の芸名でいへば、樫田喜惣次だ。その次がシゲノ、それから忽然と窮屈にこゝに鳥居の立つたお稲荷さんがある。いつも賑々しく赤旗や白旗が立つてゐたものだ。その隣りが土蔵で、それからインク屋。この側の板新道のはづれが丸かねといふ家である。
一軒おいてまた何軒飛んで……といつたのはそれだけ附落ちになつてゐる家数であるから、恐らくそれ等もよく覚えてゐたら又それぞれに路地の中の各種の商売屋だつたらう。
尤も多少はその中に、表通りの家のこの路地まで突き抜けてゐる背中もあつたかも知れない。試みに横山町の表通りを北から南へその裏が板じん道になる間だけを軒別にあげて見れば――先づ角の足袋や植村に始つて、葉
前へ
次へ
全28ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
木村 荘八 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング