つたといふ。
この家はいろはになつてから、俄然、当つたのであつた。――計らず身の回りのことを述べてよくなかつたと思ふけれども、本意は、自分事よりも、月二十二円の家賃などという物価はをかしいと思ふのである。千円もをかしい。今でいへばその何層倍と考へ替へたらいゝか、見当の付きかねる相当大きな家で、前回りは木造、後構へは煉瓦造りの総二階だつた。
――この「いろは牛肉店」に関することなども僕に文筆が伸びれば、書けば「材料」は凡て一風変つた生活の、面白いことが数々あるけれども………
[#「帳付け」のキャプション付きの図(fig47736_04.png)入る]
図はいろは牛肉店の帳付けの仕方であるが、上の数字は客の下足番号、下の横長い数字は客の人数を示し、ウは並牛のこと、一人前当時十五銭。ロはロース肉で二十銭。サは酒の一合十銭。玉は玉子五銭。ゴはゴブといひ、これは五分のことで、ねぎを丸ごと横に五分々々ゴブゴブと切る。即ちゴブ、一人前三銭。ザはザク。矢張りねぎをざくざくとはすに切る。従つてゴブより多少盛りが少くなる道理の、一人前二銭。かういふ酒をのんでめしを食はない通しものを「御酒台《ごしゆだ
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