な老人の顔の、雪月花の広告絵であつたが――しかしこれはあるひは本石町の角の鉄道馬車の曲るところに、こゝには確にあつた、その広告絵との混同かもしれない。銘酒雪月花のびんを両手に捧げて上下《かみしも》姿(あられ小紋)の老人がにこにこしてゐる、これが大きな顔の、この広告絵は、われわれには相当気味悪く感じられたものであつた。(神崎の広告絵はそれではなく、大きなびんと蜂との書かれた蜂印葡萄酒の絵だつたかもしれぬ――何れにせよ、このポスター・ヴァリューは、明治時代の小さからぬものであつたらう。)
そしてトラ横町は、神崎洋酒店の角から、南へ走る薬研堀横町及び米沢町に交叉するのである。
[#「「両国橋及浅草橋真図」模写」のキャプション付きの図(fig47736_03.png)入る]
「両国橋及浅草橋真図」は、丁度ぼくの扱はうとする限りお誂へに写した井上探景(安治)の版画で、前に述べた大平(松木平吉)板の、御届明治十○年○月○日と記入のあるものだ。(この○は何れも一字空白となつてゐる)。――ところで、この図の中程に見える、間口をだゝつ広くとつて、二階前面のガラス戸に五色硝子をあしらつた角店が、ぼくの
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