来ると信じられる。少なくもぼくなどは当時触目する新聞雑誌のさしゑや、口絵に「清方ゑがく」を見て、例外なくその印刷紙面に、愛情をつなぎつゞけたものだつた。
 これをいひ替へれば「清方ゑがく」鏑木さんがわれ等の一つの「時代」の渝らざる愛情をしつかりつなぎ止めて誤まらなかつた程に、仕事の精進を一刻もゆるがせになさらなかつた証跡を示す、絵画執筆担当の責任を果された思ひ出となるものである。
 ――そしてそこに、つい口幅つたいいひ草で気になるけれども、いへば他ならぬ「鏑木清方」の時と共なる向上進歩が手堅く裏付いて、「清方ゑがく」回想は強固のものとなる。
 鏑木さん一個の「回想」ではなく、我々時代共通の一つの資産となるのである。
 元々はそれがぼくといふ相手なりぼくに先づ印刷紙面の愛情を通じて浮かび上つた「鏑木清方」の蜃気楼は、やがて時と共に鮮明確実となり、通夜物語の丁山の五寸に充たない木版立姿が樋口一葉の全身像にまで盛り上る、「清方」の歴史。その後はこれが口を利くのであるが、「鏑木さん御自身」がまた、その「蜃気楼」のいきさつについて、明徹無類に如何によく回想し、その認識をちやんと胸にはつきり折りた
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