別として、イヤなものなどありよう道理は無いからである。
――ところで、逆説ではないけれどもぼくをしていはしめよ。鏑木さんに有り能ふ欠点を若し指摘せよといふならば、他ならず、ぼくはその「イヤなものをかゝない」鏑木さんの端正厳密こそ、それが鏑木さんの常に特点であると同時に、どうかすると欠点でもあるのではないかと考へる。先生許させたまへ。ぼくは腹中に一つ思つてゐることをいつて了ふと、鏑木さんのかゝれる、――常に趣味透徹して美しく、個性満々たる――人物には、最高の情緒もあれば最麗の姿もあり最緻最微の神経に事欠かぬ影に、たつた一つだけ鑑賞のうれひとも云へるものゝあることは、その人物や手足、服飾などに(服飾の点からいへば近作の一葉は円朝像に殆んど肉迫せんとする、立派な作品であつたと思ふ)余りといへば画品の清々しく透みわたるまゝに、埃や、汗や、あぶらや、ゴミ……これの無いことが物足りないが――
人は如何に端麗の秀人と雖も埃や、汗や、あぶらや、ゴミの無いものはない。
といつて埃だらけ、あぶらだらけ、汗だらけ……の手足人頭は元より美術に禁物のことはいふまでもないが。――
鏑木さんのものにはそんな
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