。時々、戦争絵が出て来て、しげしげと見ました。大寺少将は黒の外套を着て、その外套の胸に胡粉が一杯ついていましたが、それがブツブツ盛り上っているので好きでした。オーデラ少将と云う音にも妙に魅惑があったらしい。その他原田十吉の門破りとか、馬を連れた福島中佐など――この福島中佐には別にガラスの玉で、中に水と紙の粉と福島中佐の人形とが仕組んである玩具を持っていて、殆ど一日に一度や二度はきっとその玉を振って見る。するとバラバラと馬上の小さな中佐へ大雪がふりかかります。じっと見ている間に段々静まる。シーンとして、遠くへ行ったようの気になります。
 当時私の家はそっくり硝子戸の造りに、その硝子が一こま一こま、赤、青、黄、紫、白、と、五色の市松になっていました。二階で日なたにいると広間の畳へ不思議な色模様が染まります。その西日を受けた赤などの色は、余り気持のいいものではありませんでしたが私はよくその中の一つ色を選っては、互ちがいに飛んで歩いて、そこで遊んだことがあります。
 海や山は私は殆ど中学へ行く迄知りませんでした。芝公園へ行くと深山へ入ったようの気がしたものです。大てい家にばかりいて、絵は初めか
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