酒を酢くする化けもの
つきぢ河岸の河太郎
てんが茶屋のわらひ地蔵
土佐ぼりの油なめ小僧
破れ三味線の化けもの
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 この九つの怪物が淡墨淡彩で描かれてゐるものだつたが、九つに限つたのは推定すらく、番町皿屋敷のお菊の皿の数に因んだものだらう。
 これがぼくの最々近に見た岸田の日本画であるが、これが短命だつた岸田にとつては早くも晩年に属する作品の一つで、乙丑九月とあるから大正十四年に当り、岸田は三十五歳、京都に偶居した頃の逸作である。(岸田は三十九歳、昭和四年十二月二十日に旅で死んだ。)それと、今ぼくがこの書きものするには丁度よいことには、その「ばけものづくし」を見た、その一つ前に見た岸田の日本画が、これはまた、初期に属する作品の、猫を描いた白描で、辛酉晩春劉生写と署名がある。辛酉は大正十年である。
 大正十年には歳三十一。鵠沼に住んでゐた時代の、日本画ではその頃ほひまだ初期だつたけれども、岸田全体の仕事から見れば、これが一番張り切つた、あぶらの乗つた頃に当るのである。
 何かのしをりにならうし、勘定してはわかりにくいことだから、左に関係部分だけの年号の干支を摘記して
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