この酒はすつぺえとでもいつたのが、岸田にたちまち霊感したのだらう。土佐堀の油なめ小僧といふのは画商森川喜助である。森川君の酒席におけるおとなしやかの面貌、生けるが如し。
岸田は蚕が糸を吐くやうに喜々として之らの絵を作りつゝ、面白くて面白くて仕方がなかつたに相違ないと思ふ。この絵の紙背からその岸田の喜々たる笑ひ声を如実に聞くやうに感じ、ぼくはこの化けものづくしを見てゐるうちに、昔懐しく、あとで大変寂しい心持となつた。
後記
この文章は、雑誌に掲載された頃から故人の日本画についての手引になるといふので、画商の専門家の間などに特に読まれると聞くので、責任も一しほ深いから、わざと一通り原文のまゝここに再録して、後記、即、「訂正」を添へるものである。
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一、岸田が岩絵の具を使はなかつた[#「使はなかつた」に傍点]と読める工合にかいた個所は、「使ひ馴れるには至らなかつた」と改めたい。岸田は岩絵の具を使つてゐる。(勿論、岩絵の具の使つてある真作があるのである。)只この彩料世界はまだ自由自在といふまでマスターするに至らない中に倒れたのと、元々をして岩絵の
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