困るなあ。泣く事は何も無いぢやねえか、え? おい(短い間)
沢子 (自分の気持とは反対の語調で)新さん、私、そんなもの要らないよ。
秦 え?
沢子 そんな薬なんぞ要らないよ。
秦 どうしてだよ。まあ? 急に又何を言ふんだ? お前の身体を心配すりやこそ――。
沢子 (強いて)ほつといておくれ、お前さん、そんな金がよくまああるね。――(泣声)お前さんにや、妻や子は可愛く無いの? 妻子の事は考へないの? なんだつて、なんだつて又私みたいなこんな――。私や知つてゐるよ。あんな気立のいゝおかみさんや子供をかつゑさしといて私に、私に薬を買つて来る金が、よくあつたねえ。要らないよ、私や。
秦 そ、そんな事を言つたつて――。
沢子 私やこんないけない女だよ。こんな、腐つた様な女のどこがよくつて、お前さん、妻子をうつちやつといてやつて来るの? たかが平職工の取る金位で、さ――。
秦 (気色ばんで)なに、なんだつて!(しかし再び気弱くしよげる[#「しよげる」に傍点])
沢子 さうぢや無いか。そんな、そんな余分の金が在つたら、おかみさんに、ちつたあお米の苦労位させなきやいゝぢや無いか。私が妬いてこんな事言ふ
前へ
次へ
全81ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング