ゝ、早く出てくれなくちや困ると言ふのよ。
秦 その身体でか?
沢子 私、もうどうなつたつていゝから明日からでも貰ふつもりでゐるわ。
秦 そんなお前、無茶な――。
沢子 かまはないわ。――もう私なんぞ、こんなにひゞの入つた身上《しんしやう》だし。
秦 そいつあ、やけ[#「やけ」に傍点]と言ふもんだ。
沢子 やけ[#「やけ」に傍点]だつて何だつていゝぢや無いの。――それに寝てゐれば、食べるものだつてロクロク持つて来てくれないんだもの。――もう四日前から秋ちやんがおごつて呉れるものだけだわ、食べるものは。
秦 さうか――。
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――あゝ、こないだ話してゐたの、持つて来たよ。
沢子 なあに?
秦 (包を出して)これさ、薬だよ。薬屋でさう言つたら、向ふの奴、ニヤニヤ笑つてゐやがつた。(寂しく)ははは。十日分も買つて来りやよかつたんだが、手が廻らなくて、これは三日分だ。無くなつたら又此の次にするよ。(弱々しく)しかし、食ふものも食はないぢや、薬だつて効くめえ――。
沢子 (泣き出してゐる)
秦 だけど、まあ、その内にや何とかなるよ。何を泣くんだね。
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