俺にやわかるんだ。――姉さんに今の様な事をさせないためなら、俺ら死んだつて関[#「関」に「ママ」の注記]はないんだ。あゝ、何でも無いよ。
[#ここから2字下げ]
足音をさせないで職工服の秦が六畳の方へ入つて来る。包と辨当箱を下げてゐる。
[#ここで字下げ終わり]
姉さんは、俺らのために、こんな事をしてゐるんだ。俺にや、いくら一生懸命になつても一日に十銭より封筒は張れないんだ。――畜生! 世間の奴等! 畜生! 肩を、へし折つてやるんだ。畜生!(荒く立上つて、三畳の左隅の障子を開けて出て行く)
秦 どうしたと言ふんだい?
沢子 あなた、又来てくれたの。
秦 どうしたんだい?
沢子 恵ちやんよ。秋ちやんの弟の。
秦 それはわかつてゐるんだけど、何をあんなに怒つてゐるんだね?
沢子 眼が見えないし、あの子も可哀さうなのよ。
秦 ――しかし別に今に始まつた事ぢや無いんだし――。お秋さん居ないの?
沢子 えゝ、昨日の臨検騒ぎで警察へ行つたつきり、まだ帰つて来ないわ。――なにね、先刻《さつき》おかみさんが来て、私に嫌みを言つたもんだから、それから恵ちやんが――。
秦 嫌みてえと、また――。
沢子 え
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