んぢや無い事は、お前さんも知つてゐるね。――私や、お前の気が知れないよ。帰つておくれ、家へ帰つておくれ。帰つておくれつてば!(声を出して泣く)
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永い間
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秦 ――(独言の様に沈んだ調子で)そりや、知つてゐるよ。俺が一番よく知つてゐる。――内の奴あ、可哀さうな奴だ。子供だつて可哀さうだ。そりや知つてゐら。――お前と俺とは去年、此処でヒヨイと知り合ひになつたばかりの仲だ。――奴等あ俺のかゝあ[#「かゝあ」に傍点]や子供だ。それは知つてゐるよ。しかし、仕方が無えんだ。俺の気が弱いせいだから、仕方が無えんだ。――
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沢子 新さん。(やさしい)
秦 ――?
沢子 お前さん、お前さんは――。
秦 何だよ?
沢子 私が、もし、一緒に死んで呉れと言つたら。
秦 え?
沢子 いえ、もし、死んで呉れと言つたら、どうするの?
秦 どうする?
沢子 どうするの?(間)
秦 ――一緒に死ぬよ。――死なあ。
沢子 おかみさんや子供は?
秦 可哀さうだ。可哀さうだけど。
沢子 (気を変へて)お前さんは、馬鹿だねえ、冗
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