談だよ。
秦 (相手の調子に釣られて弱く、薄笑ひと共に)馬鹿よりも、いくぢ無しの方だろう。
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間――二人ともヂツとしてゐる。
六畳だけに電燈がパツとつく。
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あゝ、電燈が来やがつた。(あたりを見廻はす)
沢子 もう帰らなきや、本当に悪くは無いの。
秦 あゝ、そろそろ帰るよ。(沢子に蒲団を着せてやる)お秋さんは馬鹿におそいねえ。
沢子 もう直きだろ。
秦 この薬は飲んでくれ。
沢子 せつかくだから貰ふわ。しかし今度から、そんな事するのは止してよ。――なあに、私、別に大した事は無いんだから。(女将に向つて何か言ひながら昇《あが》つて来るお秋の声)
声 ――えゝ、ようござんすわ、おかみさん、私からよくさう言ひますから。――沢ちやん今帰つてよ、どうなの、身体の工合は?
沢子 お帰んなさい。――ありがと、大分いゝわ。それで――。
お秋 (障子を開ける、勝気らしい、それで非常にやさしい表情をしてゐる)あれ、秦さん来てゐるのね。
秦 (辯解する様に)いや、ほんのチヨイと先刻、病気だつて言ふから、どうしてゐるんだらうと思つてね。どれ、ボツボツ帰るかな――。
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