お秋 いゝえ、今、此処に居る訳ぢや無いわ。ゆうべ来て、二人とも初ちやんを戻して呉れつて言ふのよ。
初子 杉山さんは、匕首なんか持つてゐなかつた?
お秋 匕首? どうしたのさ? ぢや、そんな――。
初子 えゝ、それで、私達を以前から、おどしつけてゐたのよ。
お秋 さう、そんなに――。だけど、そんな事、何でもありやしないわ。子供だましだわ。
初子 えゝ、そりや、私だつて、今更、まさか小供ぢやあるまいし、そんな物、こわくも何ともありやしないんだけど――。それから、それ位のことで町田さんの家を出て来たんぢやないんだけど――。
お秋 どうしたのさ? あんな、――あんなにまで無理をして一緒になつた、あんた達がさ、――どうしてまた? ――。大体、町田さんから聞いたには聞いたんだけど――。
初子 あの人は可哀さうよ。実家とは私のためにあんな事になるし――。それに、あんな身体で夜まで働きに行くんだもの。――あたし、それを思ふと――。
お秋 ――だつて、そりや、好きな女と一緒に暮すために、町田さんが自分ですることだもの、あたりまへだわ。あたりまへとは言へないまでも、とにかく、それはそれでいゝぢやないの。―
前へ 次へ
全81ページ中59ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング